sonarsound tokyo 2006. Advanced Music and Multimedia Art

 

このライヴは是が非でも観るべきだ!
[2006-10-04, サラーム海上]

 僕はヤン富田の熱心なファンではない、と思う。彼の音源や活動を熱心に追いかけてきたわけではないからだ。だが、彼のライヴは是が非でも観るべきだ!と強く言おう。
 現在39歳の僕が彼のことを知ったのは80年代中頃、いとうせいこう&タイニーパンクスの「建設的」、もしくはウォーター・メロン・グループの「Cool Music」のどちらかだったはずだ。一方は黎明期のヒップホップ、もう一方はマーティン・デニーとYMO以降のエキゾ・エレクトロ・ラウンジ、全く異なる音楽性なのに、調べるとどちらにも「ヤン富田」の名前があったのだ。

 92年の彼の初ソロ・アルバム『ミュージック・フォー・アストロ・エイジ』は当時、何百回聞いただろうか。映画音楽のようなドリーミーなメロディー、それまでに知っていたトリニダード・トバコの明朗快活なスティール・パン・オーケストラとは異なる、妖しい響きのスティール・パン・ソロ(5月のライヴでは彼自身「神秘主義的な響き」と言っていた)、そして4分33秒の沈黙……。当時、僕は新卒で全国チェーンのCDショップに就職したものの、最初の赴任地は地方のデパートの中にあった、J-POPの新譜ばかりが売れる小さな店舗だった。そんなごく普通のレコード店でもこのアルバムはなぜか問題なくプレイできた。アヴァンギャルドな中にも彼独特のポップ感覚が通底していたからだろうか。発売後二月ほど、今となっては何一つ覚えていない90's J-POPの合間にひっきりなしに店頭プレイした。
 この頃彼は、後に「素晴らしい偶然を求めて」としてリリースされた、伝説のライヴを行っている。が、地方在住だった僕にはその情報は届かなかった。
 今思えばメジャーからのリリース自体が奇跡的だった四枚組ボックス『ミュージック・フォー・リヴィング・サウンド』は98年春。僕は二年半にわたるユーラシアのバックパック旅行を終えて、日本に戻ってきたばかりだった。この四枚組は、旅の間ずっとアジアやインドや中東の定型化した歌謡曲ばかり聞いていた僕の耳を東京モードにリセットするのをずいぶん手助けしてくれた。そして聞く度に不思議な発見や感動があった。野外の風が鳴らすハープ=エオリアン・ハープや演奏中のグランド・マスター・フラッシュの脳波を変換した音声信号、三枚の異なるドーナツ盤を切り貼りしたプリペアード・レコードなど、作為的ではないはずの音なのに、同じ機材を使えば誰が録音しても同じ音になるはずなのに、なぜとても音楽的に聞こえるのだろう? なぜ感動してしまうのだろう? 自然発生的な音の奥に何某かの作家性を感じてしまうのはなぜなんだろう?
 東京での生活基盤を取り戻すのには旅の長さと同じだけ、きっかり二年半かかったが、いったんそうしたツケを払い終わると、時が過ぎるのが急に速くなった。そして気づくと2006年、8年ぶりのヤン富田の新作CD『フォーエバー・ヤン ミュージック・ミーム2』と350ページ強の初単行本『フォーエバー・ヤン ミュージック・ミーム1』、そして彼がプロデュースした新人TORUMANのアルバム「友情」が続けざまに届いた。この後はDOOPEESのセカンドも控えている。
 だが僕は、彼のライヴを観たことはないままだった。なぜなら彼は13年もライヴを行っていなかったから。現在、最もライヴを観るのが難しい日本人音楽家? そんなヤン富田が今年の5月26日、西麻布SuperDeluxeで突然ライヴを行った。
 その晩は当然満員で、機材の山の間に腰掛けたヤン富田の姿は会場の真ん中辺りからはほとんど見えなかった。だが、鳴りだした音……金属的な低音がループされてブランコが揺れるような音、そこに自作シンセの電子音が絡んでいき、長い時間をかけてクレッシェンドしていく……5分〜10分と海の波のように繰り返される音で僕はやはり心を奪われてしまった。そこに聞き覚えのある旋律が少しずつ現れ始め、スージー・キムとキャロライン・ノヴァクの愛らしい英語コーラスが加わっていく。そしてついに二人がステージに現れた。DOOPEESだ。
 彼女らが一曲歌うと、今度は入れ替わりに高木完といとうせいこう=NAIVESが現れた。シンセのループが延々と続く中、二人はインドの弦楽器シタールを爪弾き、ゆっくりと新曲「フォーエヴァー・ヤン」が始まっていく。CD収録ヴァージョンよりもはるかに壮大なイントロを得て、アーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」にインスパイアされたとおぼしき、いとうせいこうの詞がますます冴えわたる。今まで漠然と彼のCDを聞き感じていた、ゾクゾク、ワクワク、????をやっと生で感じられた! アンコールのスティール・パン・ソロでは感極まって泣いているお客と気持ちよさげに眠っているお客が隣り合っている光景を見た。ヤンさん、スゴイ!
 ソナーサウンド・トーキョー2006にはその晩と同じメンバーでの出演が決定した。是が非でも観たほうがイイ。これまでに彼の作品を聞き続けていた多くの音楽好きが漠然と、そして万感の思いを込めて「ヤンさん、スゴイ!」と言っていた意味を、自分の耳と身体で直に体験出来るはずだから。

サラーム海上(よろずエキゾ風物ライター)

 

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